息子

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私には8ヶ月になる息子がいる。
もうハイハイもできるし、つかまり立ちもする。人間の子は動物に比べ、成長がゆっくりと言うが、一緒にいると、毎日何かが出来るようになるこの8ヶ月間は、驚くほどのスピードだった。
でも一番驚くべきことは、私が産後鬱にもならず、息子を溺愛し、子育てを「楽しい」と思っていることだ。私がこんな風になることを、誰が予想できただろう?体温の高い息子の体を感じながら、私は息子の存在を初めて気づいた日のことを思い出す。

私は子供を持つことに消極的だった。
初めに言っておくが、私は自分の気持ちに正直に生きてきた。一番大切で可愛いのは自分だったし、一人暮らしをして10年以上経つし、社会人としてもそれなりにやってきたが、たまに実家に帰ると末っ子丸出しで親に甘えた。つまり、30代にもなって、まだまだ子供なのだ。
しかし、夫の両親や親戚は、結婚が決まった日から「孫が楽しみ」攻撃を始めた。子供の素晴らしさを延々と話す姿に辟易としながらも、一方で、自分が不妊でないか不安でもあった。

しかし、これまで特別に子供を可愛いと思ったり、欲しいと思ったことはなかったから、
自然にゆっくり、出来たら出来た時に考えよう!出来なかったら2人で仲良く暮らそう!と考えていた。

そんな私の妊娠が分かったのは、結婚式をあげた一月後、新婚旅行から帰ってすぐだった。
暑い、怠い、でも眠れない、という状況が何日が続き、まさかとは思ったが、とりあえず市販の検査薬を試してみると、くっきり陽性の反応がでた。
その時、私は、冷静さを保ちつつも戸惑っていた。妊娠できたことの安堵、トントン拍子過ぎる展開、流産の不安、自分たちの生活の変化への不安‥‥つまり不安のほうが多くて、ドラマや映画やサプライズムービーに出てくる人たちのように、「子供よ!子供ができたのよー!!!」なんて言う風にハイテンションにはならなかった。夫に「妊娠したみたい。ほら。」と検査薬を見せながら伝えると、夫も実感が湧かない感じで、ポカンとしていた。私が「嬉しい?」と聞くと、夫は「ん、でも、実感がないからよく分からない」と答えた。でも、新しい命の誕生を喜ばないのは悪い気がして、2人でそぉっと抱き合ってみた。それは、なんだか肩を寄せ合って、これから起こる大きな変化を前にお互いを慰めているような抱擁だった。

今、思うと、息子はこんな両親の様子をお腹で感じ、さぞ、不安だったことだろう。
でも、息子はこんな頼りない両親の元に10ヶ月の時を経て、立派に生まれてきてくれた。
これから、ゆっくりゆっくり、時間をかけて、私たちは家族になる。
今より、ずっと、家族になる。